ケーススタディ「不動産取得税課税処分取消訴訟」
第1回 ―共有建物の分割と地方税法第73条の7第2号の3の適用について―
佐々木 広行
<はじめに>
本稿は、私が取り扱った事件のうち親和全期会ホームページにて取り上げる価値のあるものをわかりやすく掲載し、今後同じような事案に遭遇した若手弁護士の一助になればよかろうとの思いで書くことにしました。
そして、「取り上げる価値があるか否か」の判断に際しては、
① 先例のあまりない事案であること
② 今後、類似の紛争が身近で起こりえて、法律相談に持ち込まれる可能性があること
を考慮し、また「わかりやすく」というのは、ロースクールの学生や法学部の学生が読んでもたやすくわかる程度ということを目標とし、なるべく平易な文章、言い回しを使うということを意識しました。
本稿は連載形式をとり、
第1回 不動産取得税に関する基本的理解
第2回 事案の詳細な内容と争点となった不動産取得税の非課税規定
第3回 審査手続の実態
第4回 行政訴訟の提起と結末
という流れで進めていきたいと考えています。
本稿は学術論文ではないので、ところどころ説明を端折る部分がありますが、最低限の知識さえ身につけていただければよいとの考えから書いておりますので、その点はご了承下さい。
<事案の概要>
昭和63年1月
A社は世田谷区にある甲土地を購入
A社は甲土地取得に伴い、都に対して不動産取得税を納める。
平成元年1月
A社、甲土地上に10階建ての建物(以下、乙建物という。)を建築
乙建物はいわゆるマンションであり、10戸の部屋があった。
A社は乙建物建築に伴い、都に対して不動産取得税を納める。
平成3年1月
A社はB社に対して、甲土地と乙建物について、それぞれ持分2分の1を譲渡。これにより、甲土地と乙建物はA社とB社が各自2分の1ずつ共有することとなった。
B社は甲土地と乙建物について2分の1の持分を取得したことに伴い、都に対して不動産取得税を納める。
平成18年1月
A社は経営不振のため、乙建物の売却を決定。しかし、B社と共有している現状では売れないので、B社と協議し、乙建物は10戸からなるマンションなので、各自が5戸ずつ取得するようにした。
A社とB社は、まず各戸の占有面積を調べ、各自が取得する部屋の占有面積がほぼ等しくなるように分け合った。その結果、A社が取得した5戸の占有面積の総和は、B社が取得した5戸の占有面積の総和より、1.5平方メートル多いだけだった。
手続き的には、まず、各戸について区分所有登記を行い、各戸が独立に所有権の客体になるようにし、その後、司法書士の勧めに従い「交換」を登記原因として、A、B各社がそれぞれ5戸ずつ取得した。
なお、土地については、通常のマンションのように各戸が占有面積に応じて持分を有するようにした。
平成18年6月
東京世田谷都税事務所より、A社、B社双方に対して、不動産取得税課税通知書が届く。
第1 不動産取得税に関する基本的理解
1 私が受けた相談は簡潔にいうと、「都税事務所から不動産取得税を課税されたが納得がいかない。延滞金がつくので一応納めはしたが、不服申立手続や訴訟を利用して徹底的に争いたい。」というものでした。
今回は、基本的な法律知識として、① 不動産取得税とは何か(税としての性質)、② 不動産取得を課税され、それに対して不服がある場合には、いかなる不服申立手続があるかについて論じることとします。
2 不動産取得税について
1) 不動産取得税の性質
不動産取得税は、その名の如く、不動産を取得したという事実に着目して課税される税金です。取得原因がなんであろうが、また取得が有償か無償かは関係なく課税されます。
ご承知のとおり、不動産を所有しているという事実に対して課税されるのが固定資産税とか特別土地保有税とかいったものです。
不動産の取得原因の典型例は「売買」による有償・承継取得ですが、贈与により無償取得しても、時効により原始取得しても、不動産取得税は課税されます。
家を新築しても不動産を取得したことには違いはありませんから、不動産取得税が課税されます。
不動産の移転という事実に着目して課せられる税金ですから、取得者がその不動産を使用、収益、処分することによって得られるであろう利益には全く着目していません(このような性質の不動産取得税は「流通税」と呼ばれています。)。
ですから、不動産を時効取得した場合、喜んでばかりはいられません。所有権移転登記を行えば、次に来るのは不動産取得税の課税だからです。
私は以前、都内のけっこうよい住宅地にある借地権付建物について時効取得を主張し、名義を自分のものにしたいという方の相談にのったことがあります。
弁護士として受任した訴訟は「登記請求訴訟」であり、この相談者が借地権付建物の名義を自分のものに変えることができれば弁護士としての仕事は達成されますが、訴訟前の相談では、仮に時効取得の主張が認められて建物について所有権移転登記を行えば、その後に不動産取得税が課税されることを伝えておきました。
というのも、このときは問題となっている借地権付建物が一等地にあったので、課税される不動産取得税も数百万円になると予想されたからです。
2) 課税根拠と課税庁、更には訴訟において被告とする相手方
日本国憲法は租税法律主義(84条)を採用していますから、全ての税金には法的根拠が要求されます。
不動産取得税の課税根拠は地方税法です。
地方税法は文字とおり地方自治体の課税権について規定しています。
地方税法第2条は「地方団体は、この法律の定めるところによって、地方税を賦課徴収することができる。」と定めており、この条文が地方団体の課税権の根拠条文になります。
ここで「地方団体」とは道府県と市町村のことであり、「地方税」とは道府県税と市町村税のことを指します(同法1条)。
そして、道府県税とは具体的にはなにか、市町村税とは具体的には何かということは地方税法第4条以下に規定されています。
例えば、今回問題になる不動産取得税は、道府県税として第4条2項に掲げられております。
つまり、不動産取得税は、地方税のうちの道府県税であるということになります。
ですから、例えば、東京都内にある不動産を取得すれば、東京都から不動産取得税を課税されますし、大阪府にある不動産を取得すれば大阪府から課税されることになります。
東京都を例に取り、もう少し具体的に説明します。
例えば、千代田区にある不動産を取得したとします。
この場合、東京千代田都税事務所所長名で課税通知書が送られてきます。
東京23区の場合、各区に都税事務所が配置されているので、不動産の所在地を管轄する都税事務所が具体的な課税処分を行うようになっています。
ここで、一つ覚えておくことがあり、それは訴訟(課税処分取消訴訟)を起こす場合にどの機関が被告適格を有するかです。
先ほどの例でいうと、千代田区にある不動産を取得したことにより、東京千代田都税事務所の所長名で課税通知書が送られてきました。この課税処分に不服があり、課税処分取消訴訟を提起しようということになった場合、被告は誰になるのか。
具体的な課税処分(行政処分)を行ったのは、東京千代田都税事務所所長ということになります。
そこで、以前はこの所長が被告適格を有するとされていたのですが、平成16年の行政事件訴訟法の改正により当該処分を行った行政庁が属する公共団体が被告適格を有するものと改められました。
そこで、被告は「東京都」になります。
ただし、被告を表示する際に「被告 東京都(処分庁 東京千代田都税事務所 所長・・・)」と括弧書きを付け加えます。
3 不服申立手続について
税金の賦課処分に不服があれば、当該処分の取消しを求める裁判を提起することができることはいうまでもありません。
これは行政訴訟のうちの抗告訴訟と呼ばれる訴訟類型に当り、行政事件訴訟法の適用を受けます。
ところで、地方税法に基づく地方団体の賦課処分については行政不服審査法が適用されますから、行政不服審査法が規定する不服申立手続と訴訟との関係が問題になります。
行政事件訴訟法第8条1項は、本文において、取消訴訟は当該処分について審査請求をすることができる場合でも直ちに提起することができるとの原則を定めつつ、但書において、法令が審査前置主義を規定しているときには、この限りではないとします。
つまり、原則はいきなり訴訟を起こすこともできますが、特に法令において、まずは不服審査手続を申し立て、それでもなお不満があるならば訴訟を提起しなさいと定められている場合には、それに従いなさいということです。
この点、地方税法第第19条の12は審査前置主義を規定しています。
そこで、不動産取得税賦課処分に対して不服がある場合には、まず審査請求を行い、そこで下された採決に納得がいかなければ訴訟(行政訴訟、抗告訴訟)を提起することになります。
私の相談者(A社、B社)は世田谷区に15階建てのマンションを所有していました。
このマンションに関して、東京世田谷都税事務所から不動産取得税の課税通知(課税額は300万円程度)を受け取りました。この課税処分がどうしても納得できないので、訴訟を提起してでも争いたいというのですが、どうして納得がいかなかったのか、その理由については次稿で詳しく書きたいと思います。
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